我々下記に連名の者は、日本における臨床法学教育の研究と実践を発展させるために、「臨床法学教育学会」を設立することを発起する。

法曹養成のための経験的方法論としての臨床法学教育は、日本においては２００４年４月の法科大学院の創設とともに本格的にその教育実践を開始した。ここにいう臨床法学教育とは、三つの教育形態に大別される。すなわち、現実の依頼人に対し学生が法曹資格を有する教員の指導監督の下に法律サービスを提供するリーガル・クリニック、現実の事案を教育目的に応じて加工し教材として用いるシミュレーション、および、現実の法務活動を行う法律事務所・企業法務部・行政機関・各種NGO等に学生を派遣するエクスターンシップである。これらの臨床法学教育の三形態は説明の便宜上の分類であり、教育実践においては、教員の創意工夫が凝らされ、諸形態の組み合わせや新しい臨床方法の採用が図られており、法科大学院創設後僅か３年の間にも、全国の法科大学院において多様な教育カリキュラムが展開されている。

臨床法学教育は、座学で学ぶ法理論を法実務の環境において応用・検証することにより、その理解を深く確実にするだけでなく、法理論に裏打ちされた法曹技能を修得させ、専門職業人としての倫理観と価値観を涵養する効果がある。また、臨床法学教育は、大学における高度の学術専門性と豊富な実務経験を有する指導教員の監督の下に、これまで法律サービスの行き届きにくかった人々へ、教員と法科大学院学生による質の高い法律サービスを提供することにより、社会への貢献を実践することができる。このように理論と実務の双方において、法曹の活動を省察的批判的に検討することができる学生を育てることを通して、臨床法学教育は将来にわたり法理論と法実務の継続的改革と発展を担う法曹の養成を目指すものである。

臨床法学教育は北米においてはアメリカおよびカナダ、ヨーロッパにおいてはイギリスおよびポーランド、アジア・オセアニアにおいては中国およびオーストラリアなど諸外国において、多様でかつ活発な教育実践がなされており、これら海外諸国の臨床法学教育の研究者および教育者と交流することの意義は大きい。また、専門職養成において臨床方法論を採用するのは、ひとり法曹養成分野に限られず、医学教育に代表される他の専門職養成の実績から、臨床法学教育が学ぶことの重要性は大きい。

我々は、優れた教育効果と社会貢献の可能性を持つ臨床法学教育への取り組みが、個々の実務家教員や研究者教員を束ねる学会の設立によって、その法曹養成の実を一層あげることができるものと確信する。よって、ここに日本における臨床法学教育の一層の発展と普及のために、我々は「臨床法学教育学会」の設立を発起するものである。この学会設立の趣意書に多くの法曹養成関係者が賛同され、学会が設立の運びとなることを期待する。

２００７年７月７日